2020 The New Earth A travel report【23】タマラの物語

2016/01/19


「2020 The New Earth A travel report-22」の続き…

タマラの物語

「あなたの古い自己もそうだけど、私もバウチをよく知っているの。彼とはEigiland を通して知り合ったのよ。彼がEigi と例の賛歌をつくったと聞いて興奮したわ。当時私はエイジランダーだったの。
エイジランドは私の自己意識を随分変えてくれたし、エイジランダーの一人であることは、とても心地よかったわ。
ゲーマーズ・ギルドに例えられるかしら。あらゆるキャラクターを選ぶことができながらも、どこかに属しているってすごいこと。ほとんどの人たちには得ることが一杯あるのよ。属すということは、特定の考え方をするということだけど、以前のようなドグマチックなものでは決してないの。
もっと話を聞きたい? それなら本を戻してちょうだい。これからはいつでも読めるし、経験し続けていくこともできるわ」

もちろんそうだとも。僕たちはベッドに腰掛ける。ものすごい親近感を覚える。

僕の姉妹と話しているみたい。

「当時、私はシングルマザーだったの。私の娘エバは2015 年だと3歳よ。私は 娘と一緒に当時のボーイフレンド、リチャードと暮らしていたの。リチャードは 娘の父親じゃない。私はいつだって、人生とセックスを楽しむ女だったわ。 彼と いると、私はいつでも穏やかな気持ちでいられたの。自分は淫乱なのかと思った こともあったけど、自分はそれだけの者ではないと気付いたわ。私はセックスす るのが純粋に好きだったけれど、世間ではいつも自由や束縛、依存、期待がセッ クスに結びつけられていた。
そして他者をジャッジする人たちも。彼らは自分自身に向き合うのが怖かったのよ。2015 年の前半、何かが私の中で変わった。リ チャードとの関係も失敗に終わりそうなときで、私はとても内省的になったの。 自分宛に書いた手紙のことを思い出すわ。目を閉じてちょうだい。お互いにシン クロしてみましょう。そうすればあなたにもその手紙が見えるから、一緒に読む ことができるわ」
初めは当惑したが、彼女の誘いを受け入れて目を閉じた。
「目を開けずに私を見て。私が見える?」
僕が大きな声でイエスと答えると、彼女は話し続ける。
「テーブルについている私を見て。私は文具を前にして座っている。私はちょう ど万年筆をしまったところ。手紙を読めるように持ち上げているわ。その手紙に 集中して。私の目を通して手紙を見て」
魔法が働いているみたい。彼女の手紙がはっきりと僕の目に見える。
「手紙を読める?」彼女が尋ねる。
文面に意識を集中して声に出して読み始める。最初は躊躇したが、あとは流れる ように読んだ。
「孤独感は常にそこにある。時にはあなたが孤独を受け止め、時には孤独があな たをさらう。今は孤独が私をさらっていった。孤独が私を支配する前に、私は孤 独を取り戻さねばならない。私は孤独の意味を理解しようとしている。私は独り ぼっちになるだろう。多分それだけは分かっている。独りぼっちになったらあな たはどうする? 考えるのよ! あなたは何を考えるの? あなた自身につい て、自分について。私の最初の結論は、自分が幸せじゃないこと。どうして私は 幸せになるために何もしないの?
もし私が自分で幸せになりたかったら、私は 一人でいなければならない。リチャードはいつも私といる。私たちの将来、愛、 一体感、私たちはこれらのことを十分語り尽くした。私がそれらを手放して自分 の道を行くことができるように。彼の許を完全に去りたくはないけれど、今の私 は一人になりたい。だけど彼もそれを望んでいるだろうか? 考えや質問はもう 要らない。行動を通して解決するしかない。私はまだ彼を以前と同じように愛し ているけれど、エバと二人になりたい。そして私一人だけにもなりたい。こうし て自分が、そして彼も幸せになれるか確信はもてない。それはすごいことだろう けれど、想像しにくい。
私は自分の不幸を他人のせいにする臆病者なの? 人を 助けたいと思っている人は大勢いるけれど、何よりも大きな助けは、私が、自分 は何者なのか、何をするのか、自分で決意することよ。唯一それだけが、私がしな ければならないことだけど、本当につらいことだ。私はそうしなければならない し、そのことを知っているし、それを今書き記している。でも、本当の答えは何 だろう。私は自分がじたばたしているのが分かる。
ロープを探して、握れるもの を探している。自分を救うロープは自分に他ならない。そのことを知るのって助 けになる? もっと深みに落ちないように、私は人生に、自分に"イエス" と言お う。それに私たちの愛はとても偉大だから、二人のことにもさらに取り組もう。 嘘や隠し事をしないで、自分にしているのと同じように彼に話そう。今までは問 題がなかったのも当然だわ。自分に嘘をついて、それ故に彼にも嘘をついている のだから。私は勉強がしたい。自分の家を探したい。彼と一緒に実家に滞在して 私の母親と仲直りしたい。夏には長旅に出たい。2 月に旅行がしたい。自分自身 を見つけたい。正直でいたい。書き記したい。ようやく気分がましになった。幸 福は感じられないままだけど」
読むのをやめてもまだ彼女の声が、現実離れして反響していた。
「この文章が、あなたが手にしていた本の一部になったのよ。今の手紙文を載せ たこの本は、たくさんの本棚で見つけることができるわ。多くの人たちが、その 中に自分自身を見ることができた。そして彼らは、私がこれから言うことに感謝 してくれたのよ。手紙の最後の文は消しておいてね。自分は決して幸せになれな い、私は自分にそう言い聞かせている限り、決して幸せになれないと気付いたの。
私の意識にとって、それが最初のパラダイムシフトだった。こんな考え方をした って何も良いことがなかったから、そういうふうに考える癖を直したの。私は幸 せになりたかったんだもの。思考は現実になる。私はそれをロンダ・バーンの『シ ークレット』から学んだわ。あなたがその本をどう思っているかも知っている。
はっきり言えば、幸せを求めている人にはすごく危険な本にもなりうる。なぜな ら、経験していることはすべて経験したかったことなのだと、その本はちゃんと 伝えていないからよ。人々はそういうことを意識していなかったの。今日では誰 もがそれをはっきり知っている。あらゆるものが興味と興味が結びついたものに従っており、何かを願うから、それを経験するのではないということをね。私は 人生を楽しむことを学んだわ。手紙を記さなければ、そうならなかったと思う。
2015 年8 月、たまたまあなたの物語を読んだの。ワクワクしながらどんどん 引き込まれていったわ。そうしたら私の手紙が出てくるじゃない。私は、手紙を 取り出して比べてみたわ。まったくのコピーだった! バウチはどうやったのか しら? そんなことあるはずないじゃない! 私はネイサンの存在を信じ切れて いなかった。だから今日、あなたに会えてとても幸せよ。たとえネイサンのこと をよく知っているとしてもね。これは私にとっても特別な瞬間なの。ずっと待ち 続けていたのよ。
私も2020 年の世界であなたに―― 2015 年のネイサンに―― 会える数少ない一人だと知っていたわ。ここでは一切がゲームよ。この5 年間、 あなたが本当に存在しているのか、それともバウチとネイサンの創作なのか、誰 にも分からなかった。だけど、バウチは私の手紙を書き取ったのよね。 私は自然とバウチに興味をもって、何者なのか調べたの。彼の本のおかげで再 び人生に喜びを取り戻したのは、私だけではないでしょうが、著作以外にはどん なことをしている人なのかなって。
そうやってエイジランドを知ることになり、私が手紙に書いたことは真実だと 悟ったの。私はまだ何も実行しないままだった。リチャードとはまだ一緒に暮ら し、愛し合っていたけれど、どうしても一人にはなれなかった。だから私は決意 したの。というより、自然にそうなったんだわ。本当に洞察力が働いたのだと思 う。心は重かったし随分緊張していたけれど、バウチが書いていた"別の種類の 別れ" について打ち明けたの。あなたにも見つけられると思うわ。大切なことは、 客観的に話し合って自分に自由――彼が私から奪っていたように思っていた自由 ――を与える機会を得たということ。私が母親に電話すると、とても喜んでくれ たわ。私は母の気持ちに感謝して、自分探しをしなければならないことを伝えた の。母がエバのことを聞いたので、エバは私と一緒にいると答えた。
母は、エバにあんまりストレスがかかるようなら、喜んで面倒を見に行ってあ げると言った。(母はいつも私に高圧的で、一緒にいると気がめいるので、もう 母のところには行かなくなっていた。その電話のときもちょっぴりそんな感じだった)。母も本当に寂しかったもんだから、しばらくエバをみてくれることにな ったの。その年の最初の数ヵ月間、母もまたいろいろ思うところがあって気付い たのよ。私の問題の多くは、母が私の思うようにさせてくれないところから来て るって。彼女はいつも私に干渉していたの。母の申し出は、母が私の意向をくん でくれたということ。エバにしばらく母と暮らすかどうか尋ねたら、とてもはし ゃいでいたわ。私は人生で初めて自由になれたの。私は自分が何を経験したいの か知っていたわ。それはこの物語よ。それはバウチを通して私たちにもシェアし てもらえるあなたの物語でもあるわ。多くの人たちにとって、あなたの物語はず っと待ち望んでいた神の印だった。
そうして私は船出した。衣類を詰めたバックパックと、カメラとラップトップ が荷物のすべてだったわ。リチャードと家を出たとき、私が予想していたのとは 様子が違った。彼もその本を読んでいたのよ。
『それぞれの道に進み、連絡を取り合おう。そしてお互いが幸せになるように、 旅の間経験したいことは何でも愛をもって許し合おう。お互いに立ちはだかるの ではなくね』彼はそう言ってくれた。『愛してるよ。君が考えることはすべて言葉 や行動に移していいからね。僕は、君の素晴らしい経験も含め、何もかも知って いる必要はない。だけど僕はいつでも君のためにいるよ! 連絡してね。どうす ればいいか分かっているだろう。明日は僕も荷造りして発つよ。この冒険を大切 に経験しような!』
私は唖然としたまま立っていたけれど、ふいに涙がこぼれたわ。彼が私を腕の 中に引き寄せると、私たちは一緒に泣いていた。深く愛し合っていた関係が終わ ったから泣いたのではないわ。私たちは愛し合ったまま、とうとう新しいスター トを切る方法を見つけたからよ。生まれ変わるようだった。その夜はとどまって、 早朝まで愛し合った。いつもと違ってとても自由でいられた。期待からの自由、 解釈からの自由、思考の自由、失うことの恐れからの自由、標準通りでいること からの自由。何もかも自由に流れた。私たちを通して流れ続けていたわ。私たち は一つだった。私たちには、お互い別の方向に進んでいくとしても、翌日の旅は 一緒に始まるのだと分かっていた。日が昇ると、彼は私の目を見て言ったわ。
『君は愛の芸術家だ! もし、いつか君がどうすれば人の役に立てるのか迷った ら、そのことに意識を向けてごらん!』」

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