2015/12/19
「2020 The New Earth A travel report-7」の続き…
旧友と出会う家はすっかり様変わりしていて、もはや同じ家だとは思えない。
美しく手直しされていて、そこら中、花と実のなる植物だらけだ。
僕が覚えているのは、島の他の場所と同様、植物のまだらな乾いた土地の夏景色だ。
それが今や森になっている。
水が流れているのが聞こえる。
プールから聞こえる音よりも大きい。
虫は空中でブンブン羽音をたて、小鳥は歌いながら飛び回り、そして僕の犬が、嬉しそうに尾を振りながら向かってくる。
「ファズィ!」僕は彼を呼び、他のことは皆忘れた。
鍵を持っていないけどフェンスのどこを登ればいいか分かっている。
今気付いたけど、門はまだあるのにフェンスがない。
それなら門に何の意味があるの?ハンドルを押したら開いた。
いいねえ。
鍵のない世界。
気に入った。
一つの不安が解消されると、鍵を忘れたことなど、もう過去のことだ。
農場に入り、僕の四つ足の友とあいさつする。
幸せだ。
奇妙なのが、僕が数時間前に見たばかりだと思っているファズィが、少し老けて見え、長い間僕に会っていないような反応をしている。
そうそうこれほどの歓迎を受けるわけではない。
ファズィはすっかり興奮して、くるくる走り回り、跳ね返っている。
犬にしかできない歓迎ぶりだ。
「ネイサン? ここで何をしているの?」
背後から女性の声で聞かれた。
「あなた、ちょうど・・・・・・」
僕が振り向くと、彼女は静止した状態になり、目を大きく開いた。
「オー・マイ・ゴッド、そんなこと思いつかなかったわ。
このときを完全に忘れ てた!」
僕は彼女を見たが、誰だか見当がつかない。
どうしてここでは、誰もが僕のことを知っているんだろう。
僕の方は誰も知らないのに??
「ちょっと考えさせて」と僕は言った。
「君も、僕が自分で見つける楽しみを台無しにしたくないんでしょう?」
彼女は僕を見て笑い出す。
彼女は自分を抑えることができず、両腕を広げて近づいてきた。
僕の真正面に立つと、彼女は自分の両手を僕の顔にあて、ピチャピチャ叩いた。
笑いながら僕の唇にキスして言った。
「私たちには、あなたがビーチに来る日付まではわからなかったわ。
私たち、ずっと待っていたんだけど、それがいつになるかは知らなかったの。
これってすご いことだわ! 今はあなたが二人いる。
ただあなたの方が5歳若いだけ!」
二人?何が二人?次第に分かってきた。
『バック・トゥ・ザ・フューチャ ー』がパッと心に浮かんだ。
時空連続体における誤作動、(スタートレックの)スポックや『LOOPER/ルーパー』も頭をよぎる。
ここには5歳年上の僕がいるのだと察知する。
この瞬間、僕を安心させてくれる唯一のことは、ここがまだ僕の家なので、ここにいられるということ。
そして本人は明らかにまだここに住んでいること。
再び、すごく混乱してきた。
「あなたは誰?」僕が尋ねる。
「私はクリスティーナ。バウチの妻よ」と彼女が答える。
「あなたはまだ私を知らないわ。
来て。
みんなあなたを見て喜ぶわ。
特にネイサンは。
つまりあなた、うーん、つまり・・・・・・あー神様、信じられない。
あなたがあなたに会えてどれくらい喜ぶことか、あなたには信じられないでしょうね。
えーと、その逆も」彼女が笑う。
ここの人たちみんな気が狂ってるの、それとも僕が? 彼女はとても愛情のある人で、こうして手を引かれて歩いていると、彼女の喜びがすぐに伝わってくる。
僕らは、すっかりリフォームされたテラスを歩いている。
テーブルの上には果物を盛った鉢があり、色とりどりの花々がそこかしこに咲いている。
そして僕が覚えているのよりもずっとこぎれいにしてある。
何て美しい場所だろう。
「腰掛けて」と彼女が僕に勧める。
「すぐに他の人たちを連れてくるわ!」
彼女が行ってしまってから、僕は目を閉じ、目が覚めることを願った。
足音が 聞こえる。
目を開けると、今のところまだ僕は目覚めていないことが分かった。
クリスティーナが階段を上ってくるのが見える。
後ろに従えているのは、マーク に、バウチに・・・・・・僕だ。
息ができない。
そんなに年とって見えない。
元気でいたんだ。心の中でそう思った。
別の僕が僕を見た。
「アーーーーーーーー! ほーら、いたっ!やったぜ! みんなに言ったよなあ。
夢なんかじゃないって!」
僕もこっちの世界の僕をこのような驚きをもって見ていたに違いない。
彼がそばに来て目の前で跪いた。
「これは失礼。
君をさぞかし混乱させたことだろうね。
わかるよ。
だってすでに経験したことなのだから。
調子はどうだい?いいわけないよね、思い出すよ。
オーケー、この状況にどう対処するかだ。
あらゆる事態に備えていたのだが、現実となると違うもんだな。
僕が君に何かしてあげられることある?君の気分が良くなるような?」
僕は、彼の健康的な白い歯に気が付いた。
今のぼろぼろの歯とは全然違う。
「いくらか説明するっていうのはどう?」
僕はドライに尋ねた。
「これが夢じゃないことを君に保証するよ。
ただし、保証できるのは、この瞬間以降ことだよ。
僕がまだ夢を見ている場合は除くが、それは非現実的だな。
僕が今知っていることから思うに、君はちょうどよい時に元の世界に戻る。
まずは、君が安全であることは僕が保証するのだから、君はリラックスしていいよ。
この言葉が5年前、僕を救ってくれたのを知っている」
彼らはリラックスして、僕も少しリラックスした。
クリスティーナがジュースを入れたピッチャーとグラスをもって戻ってきた。
「絞ったばかりよ」そう伝えてから注ぎ始めた。
彼女は美しく、太陽みたいに輝いている。
彼女は実に幸せそうだ。
僕は彼女が好きだな。
今になってやっとマークとバウチは疑いを捨てた。
「ちくしょー」とバウチが言って僕に笑いかける。
「俺は信じていなかったぞ。
今の今まで一つも信じていなかった。
だけど・・・・・・」彼は話すのをやめ、僕をきつく抱きしめた。
彼の目は以前よりも光を放っている。
それに体もかなり細くなっている。
「おい、どうしたんだい?」僕は尋ねた。
「口数の少ない君なんて初めてだよ!」
僕たちが互いに笑顔を交わしてから、マークも心から僕にあいさつしてくれた。
皆が腰をおろすとき「ワー、すごいことだよね」とこっちの世界の僕が言っている。
「これが現実なのかどうか、本当は分からなかったんだ。
ずっと5年間待ち続けて、今、君はここにいる。
これだけ疑っていたのにもかかわらず!」
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