2020 The New Earth A travel report【2】2020

2015/12/13


「2020 The New Earth A travel report-1」の続き…

2020

少しうっとりした気分で歩いていたが、気が付くと僕は根っこがはえたように立っていた。
少し向こうにタワーが見える。

鉄骨フレームの上にドームが乗っている。
前にも似たようなものをビデオで見たことがあった。

テスラ・テクノロジーのビデオで見たのだが、実在しているものじゃない。
その後気付いたのが、そのタワーから200メートルくらい手前の家。

古いぼろ家だったはずなのに、廃墟でなくなっている。
それどころか大きく見えるし、きちんと修復されている。

誰も住んでいないようだ。
ブラインドが閉まっていたが、テラスのドアが開いていて、白いカーテンが微風にそよいでいるのが見える。

魔法にかけられたように、僕はその家に向かっていた。
僕の周りはどこもかしこも命が活気づいている。

虫たちのブーンという羽音、鳥のさえずり、コオロギ の鳴き声、まるで互いに競っているようだ。
かなり大きい音だが、同時に静かでもあり、全体が調和している。

僕はテラスに立って「こんにちは」と声をかけようとしたら、突然、女性が出てきて、僕を見て微笑んだ。
「こんにちは。あなたがここに来てくれて嬉しいわ。

一緒にレモネードでも飲まない? 今ちょうどつくったところなの!」彼女は僕をテーブルに招いてくれた。
テーブルの上のグラスが陽に輝いている。

彼女は手にしていたピッチャーをテーブルに置き、遠慮の無い親しい調子で「あなたのことを何て呼んだらいいかしら?」と言った。
「ネイサン」用心しながら僕は答えた。

それから初めて彼女を間近に見た。
彼女 は僕と同じくらいの年齢で、茶色い髪が肩にかかっている。

彼女は、僕が思わず息を飲むくらい優しい目をしている。
僕はすっかりどぎまぎした。

僕の声の魅力はどこへ消えた?うまく言葉を選べない。
僕の自信はどこに行った?僕はいつもは内気じゃない。

でもこの時は、穴に入って隠れてしまいたかった。
ここは一体どうなっているのだろう?

「こんにちは、ネイサン。
今日、あなたがここに立ち寄ってくれて本当によかった。

他の人たちはよそへでかけているの。
だから私、ここに座って一人でレモネードを飲んでいた方がいいと思ったのよ。

私はサミラ。
あなたをお迎えできてとても嬉しいわ」彼女が手を差し出したので、僕もそうした。

彼女はレモネードをグラスに注いで僕にくれた。
楽しそうに無邪気に僕の目を覗き込む。

彼女は僕に会えて本当に喜んでいるようだ。
レモネードはすごくおいしくて、喉を潤してくれた。

さっきのベリーやイチジクとは違うおいしさだ。
僕が一気に飲み干すと、彼女はキャッキャッと喜んでいる。

「その飲みっぷりが何よりの褒め言葉よ!もう一杯どう?」僕は息をはずませながら、彼女がレモネードを注げるよう、ありがたくグラスを差し出した。
彼女は自分の分を飲む前に、笑いながら注いでくれた。

そこに座っている彼女はとても愛らしい。
モデルや美人コンテストの女王とは違い、単純にただ美しいのだ。

内側の美しさが外に輝き出ている。
またもや僕はうっとりした気分になり、礼儀作法もすっかり忘れ、僕の口からは一言も言葉が出ない。

彼女は微笑み、椅子の背にもたれ、満足そうに目を閉じた。
彼女は少しニンマリしてからこう言った。

「あなたはここの人じゃないでしょう?」
「まあ、そうなのだけど、自分がどこ にいるのかわからないんだ」

驚きと好奇心で彼女はまた目を開け、僕の心を探るように見ている。

僕は続けて言った。
「この島は知ってるし、数年間ここで暮らしたけど、僕が覚えている島とはまったく違うんだ。
もしかして夢を見ているのかなあ?」

「わからないわ。
ここではどんなことを体験したの?」彼女が尋ねたので、僕は 起きたことを何もかも彼女に話した。
彼女は、僕を不思議そうに見ているが、僕 をジャッジしているふうでもない。

彼女のまなざしが、僕の話を真剣に受け止めてくれていることを語っていた。
今と前とで何が違うか彼女が尋ねた。

「どういうわけだか、何もかも違う。
島にいることはわかっているのだけど、まったく違っているんだ。

最初に気付いたことは、島に緑が生い茂って青々としていること。
それは僕が知っているここの夏景色じゃない。

それからゴミ箱がなくなっている。
駐車場も通り道も緑と果実でいっぱいになっている。

それから後ろにタワーもあるよね。
どう言ったらいいのだろう?30分前か、僕がここに来た1時間前、この家は崩れかけていて、友だちにそのことを話していたんだ。

誰もこの家を利用しないでもったいない。
どれだけいいものが台無しになったことかってね。

今は平行宇宙にいるようだよ。
すべてがそうあるべきようになっているからね」

彼女は考え深げに、けれども好意的に僕を見て、その後タワーに目を向けた。
「ネイサン、今年は何年?」
「僕の知る限りでは2015年」そう答えるが、もう何についても確信がもてない。

彼女は驚いた様子で僕を見ている。
彼女は少し考えてから優しい声で話した。

その声に僕はまた魅了された。
「我が友よ、あなたは記憶喪失かタイムトラベラーだわ。

現在、もし私たちが年を表記するとしたら2020年よ。
というのも、私たちにとってそれは重要なことではなくなったの」そして微笑みながらこう付け加えた。

「どちらがお好き?」
こんなことは思いもよらなかったので、まったく困惑してしまった。

「深刻にならないで。ただこっちかあっちか聞いただけよ」
僕はその答えを考えてみた。

「何の考えも浮かばない。
何が起きたのか、どうやって島が5年間でこんなに変わったのか僕には分からない。

家に帰りたいと思うけど、ここから20㎞離れているんだ。
僕たちは車を運転してここに来たのだが、誰も見つけられない。
多分、ヒッチハイクすればいいかもしれない」

彼女は僕を見て明らかに楽しんでいる。
何がそんなにおかしいのか、僕には分からない。
僕は本当に笑えるような気分じゃないのだ。

とても当惑しているのだから。

「多分、あなたのお役に立ててよ」
と彼女は言った。

「この5年間でたくさんの ことが変わったの。
この島だけでなく、地球全体がそうなのよ。

私、あなたについて、まだあなたが知らないことを知っているわ。
けれど、あなたがそれを自分で見つけていく楽しみを台無しにしたくないの。

少しあなたに話をしてから、家に帰る方法を教えてあげましょう。
それでいい?」

「それでいいと思う」
僕はそう答えたが、実のところ他にどうしようもないのだ。

僕は興味と好奇心に引かれて彼女を見た。
サミラは椅子の背にもたれると、深呼吸して話し始めた。

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